■ これはヤマアラシではない ■
− トゲトゲ動物各種 −
「体に針をもつ哺乳類」と言われたら,あなたはまず何を,次いで何と何を思い浮かべるだろうか。
もしあなたが,動物に−−特に小型哺乳類に−−格別の興味をもっているわけではなく,また,たまたまハリハリ動物が関係するアニメやゲームを見たという経験も特にないとすれば,即座に挙げられる動物の名前のリストは,おそらく,「ハリネズミ」と「ヤマアラシ」の2つで終わってしまうだろう。実際,ハリネズミ類とヤマアラシ類は,あまりにもしばしば混同される。
だが、実のところ、体表にハリを備えたさまざまな哺乳動物−−テンレック類、ハリモグラ類、ジムヌラ類、トゲネズミ・トゲマウス類と,意外に多岐にわたる−−のうちで、ヤマアラシほどハリネズミと似るところの少ない動物は,ほとんど見当たらないのである。
これらのハリハリ動物に共通するのは,外敵から身を守るための,体毛から変化した針状器官のコート(被毛)だが,それらのすべてが同じデザインであるわけでは,もちろんない。普通の柔らかい被毛に,トゲ状の毛がいくらか混じるにとどまるトゲネズミの仲間は,最も多くの種を有するが,実はそれぞれ独自に発達した複数のグループから成る混成軍である。フサオヤマアラシ類は,体のほとんどが剛毛でおおわれ,背中に長いトゲを少しだけもっている。一方,見かけの最も派手なヤマアラシ科の主要グループであるヤマアラシ属のヤマアラシは,確かに非常に長いトゲをもつが,その範囲は背側の後方3分の2程度にとどまり,頭部から背すじにかけてタテガミ状に生えているのは,長く伸びた剛毛である。ハリモグラは,トゲの長さでこそヤマアラシにはとても及ばないが,腹側と頭部を除く全身に,太くて丈夫なハリをまとっている。そして,ハリネズミ類やキノボリヤマアラシ類,ハリモグラ,ハリテンレックなどは,ハリモグラのものよりずっと短く細かなハリで,同じく腹側と頭部を除く広い面をくまなく防御している。
また,哺乳類ではないが、同様の類似の形態を有するものとして、ハリセンボンやウニを挙げることもできる。
以下,それぞれのグループを順に見ていくことにしよう。
(2001.09.15. 最終推敲:2003.12.28.)
◆ ヤマアラシ類 ◆
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マレーヤマアラシ 〔VU(危急種)〕
Common Porcupine
(Hystrix brachyura ) |
ボルネオヤマアラシ 〔LRn(稀少種)〕
Thick-Spined Porcupine
(Thercurus crassispinis ) |
ヤマアラシは,アジアでは中国・東南アジアからインド・西アジアにかけて,さらに,アフリカとイタリアにまで広く棲息し,日本にも,江戸時代には見世物として連れてこられ,庶民の目にふれている。
ハリネズミが「〜ネズミ」の名をもちながら食虫目に(文部科学省ご推奨の新分類名でいうと「モグラ目」に)属するの対し,ヤマアラシは齧歯目に(同じく「ネズミ目」に)属している。
★ Too Trivial! ★
『絶滅哺乳類図鑑』によれば,齧歯類は,下顎の形態の違いから「リス顎亜目」と「ヤマアラシ顎亜目」とに分けられ,前者を「リス型下目」「ネズミ型下目」などに,後者を旧世界に分布する「フィオミス型下目」と新世界に分布する「テンジクネズミ型下目」に分類する考えが一般的である。ヤマアラシは「フィオミス型下目」に分類される。
なお,ヤマアラシ類・キノボリヤマアラシ類のほかの大型の齧歯類としては,カピバラやヌートリア,ビーバーなどが挙げられるが,いずれも水辺に暮らす動物たちである。ヌートリアはかつては「ヤマアラシ亜目(テンジクネズミ亜目)」に分類されていたが,現在の分類については不詳。カピバラは「テンジクネズミ型下目」の「テンジクネズミ上科」,半水棲のビーバーは「リス型下目」に分類されている。
ヤマアラシ科 Hystricidae は4属から成るが,この中には,体が比較的小さく,長いほっそりした尾をもつヤマアラシの仲間のフサオヤマアラシ属も含まれる。
きちんと並べて見比べてみる機会さえ与えられれば,どんなぼんやり者でも,ハリネズミと標準的なヤマアラシを混同するのが,まず並たいていのことではないことに気づくはずだ。そもそも,体の大きさからして違う。十分成長したヤマアラシは,ハリネズミよりもずっと大きい。十分に成長したアフリカヤマアラシは,20kg を優に超える(もっとも,体の小さな種もあるが)。
また、ヤマアラシの針は,ハリネズミの針とは比較にもならないほど長く,種によっては長い部分で80センチを超える。ハリネズミの短い針が,ほとんど捕食者にやる気をなくさせて我が身を守るだけの持久戦用アーマーであるのに対して,ヤマアラシの長いトゲは,反撃のための剣呑な武器でもある。
経験の浅い無謀な捕食者が攻撃をしかけようとすると、ヤマアラシは背中を向け(頭部・腹部以外をハリで覆われたハリネズミと異なり,ヤマアラシは背側の後方約3分の2と横腹部にしかトゲをもたない),そのまま後ろ向きに敵に突進していくことがある。ヤマアラシのトゲは一度刺さると抜けにくく、しかも本体からは簡単に脱落する。ために、無分別にもヤマアラシを襲った報いとして、捕食者は何本ものトゲをみやげに持ち帰ることになるが、人間が持つような,親指を備えた器用な手を備えていなければ,これを取り除くことは難しいから、運が悪ければトゲはいつまでも体に残り、結局傷口の悪化から死に至ることさえある。
敵を威嚇するとき、ヤマアラシはトゲを逆立て、後ろ脚を踏み鳴らし、トゲをカラカラ鳴らして、ブーブーという声をあげる。尾の先には先端の開いた中空のトゲがあり,尾を振るとガラガラヘビのようにガラガラと音がする。
ヤマアラシのトゲの起源はハリネズミの針と同様のものだったかもしれないが、現在の機能は、ハリネズミのそれとは似ても似つかない。そのかわりに、ハリネズミのように体を丸めて頭部や四肢をトゲの下に覆い隠す芸は、この動物にはない。
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アフリカフサオヤマアラシ
Brush-tailed Porcupine
(Atherurus africanus ) |
ネズミヤマアラシ
Long-Tailed Porcupine
(Trichys fasciculata ) |
なお,元「動物堂」店主の飴屋法水氏によれば,ヤマアラシは意外に人なつっこく,かわいいペットであるという。ただし,体臭が非常にきついので,室内で飼うには相当な覚悟が必要となる由。
ヤマアラシ類は草食性で、農作物を食害することがある。和名の「山荒らし」は、ここに由来するものだろうか。英国では「庭師の友人」との別名さえもつという雑食性(主に虫食性)のハリネズミとの違いは,ここでも明らかだ。
このいかにもしぶとそうなグループにも,絶滅が危惧されている種がいくつかある。
ネパール,インド北東部から東南アジアと中国中央部にかけて分布し,主に草の根,塊茎,球根などを食べるマレーヤマアラシ Hystrix brachyura は,肉とトゲを目当てに乱獲され,個体数が激減している。IUCN(国際自然保護連合)のレッド・リスト(1996年版) では,絶滅の危機に瀕している動物の3ランクのうち,最も軽い VU(Vulnerable:危急種)に指定されている。
また,タテガミヤマアラシ Hystrix cristata も LRn(希少種)の指定を受けている。
※ 「ハリネズミとヤマアラシの違い」は、以前 Raphael さんからご提案いただいた項目である。ずいぶんお待たせしてしまった(というか,きっともうとっくにお忘れになっているでしょうね)m(_ _;m。
なお,『ハリネズミクラブ』や『トント』にも,ハリネズミとヤマアラシを比較して違いを示した項がある。
(2001.09.15. 最終推敲:2005.02.16.)
◆ キノボリヤマアラシ類 ◆
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戦闘態勢で毛を逆立てて
後肢で立つキノボリヤマアラシ
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旧世界の地上性のヤマアラシに対して,南北アメリカには,樹上生活者のキノボリヤマアラシ類が棲む。
旧大陸のヤマアラシ(ヤマアラシ科 Hystricidae)と新大陸の“キノボリ”ヤマアラシ(キノボリヤマアラシ科/アメリカヤマアラシ科 Erethizontidae)の間には,いずれも齧歯類という巨大グループの一部であるという以上の類縁関係は特にない。つまり,それぞれ独自に,同じようなトゲによる防御を編み出した,系統の異なる2つのグループなのである。実際,細かく観察すれば,この両者には,異なる特徴も少なからずあるのだが,ともあれ,トゲで武装したその生態の類似性は,収斂進化の好例と見られている。
従来,日本語でも英語でも,日常語彙のレベルでは,両方が同じ名(ヤマアラシ porcupine)で呼ばれ,特に区別さることはなかったが,現在は,特に区別して言いたいとき,前者を Old World Porcupine,後者を New World Porcupine という。日本語でも,これに対応する「旧世界ヤマアラシ」「新世界ヤマアラシ」という用語が定着することが望まれるが,ただ,old world, new world という語は必ずしもニュートラルな語ではないから,どうかという気もしないではない。
★ Too Trivial! ★
齧歯類が,下顎の形態の違いから「リス顎亜目」と「ヤマアラシ顎亜目」とに分けられ,後者はさらに旧世界に分布する「フィオミス型下目」と新世界に分布する「テンジクネズミ型下目」に分類されることは前項でもふれたが,ヤマアラシ科は「フィオミス型下目」,キノボリヤマアラシ類のキノボリヤマアラシ上科は「テンジクネズミ型下目」と,グループを異にする。テンジクネズミ型下目は,キノボリヤマアラシ上科を含む4つの上科から成るが,南アメリカを主な棲息地とするこのグループの中で,パナマ陸橋を通って北米に進出し,北部のアラスカにまで達したのは,キノボリヤマアラシ科1科のみである。
『絶滅哺乳類図鑑』によれば,フィオミス型下目とテンジクネズミ型下目の間には,下顎と咬筋のパターン以外にはあまり共通点がないという。最近の分子生物学的研究でも,キノボリヤマアラシ科は他のテンジクネズミ型類と近縁とされている。ただし,"Classification of mammals above the species level" (McKennna, M.C. and S.K.Bell, 1997.) では,なぜかこの科をテンジクネズミ型類からはずして旧世界ヤマアラシに近縁のものとして扱っているという。
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オマキヤマアラシ
Prehensile-tailed Porcupine
(Coendou prehensilis )
キノボリヤマアラシ類の1種。トゲが短く,その長いしっぽ
さえ見せなければ,ハリネズミにも似た印象だが,2本の
後肢で立てる分,ハリより人間くさい感じを与える。
南パナマ,コロンビア北西部からアルゼンチン北部に
かけてのアンデス地方と,ブラジル北西部の,海抜
2500mまでの森林に棲息する。
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1969年にパラグアイから出た
7種の動物切手の1つに含まれていた
オマキヤマアラシ
Coendou prehensilis 。
しっぽが強調されていないのは
不可解。画家はこの動物を
知らなかったのではないだろうか?
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現生のキノボリヤマアラシ科(=アメリカヤマアラシ科) Erethizontidae は,4属10種からなる。ニシインドキノボリヤマアラシ Pallid Hairy Dwarf Porcupine, Sphiggurus pallidus はすでに絶滅しているし,クープマンヤマアラシ Koopman's Porcupine or Black Dwarf Porcupine, Coendou koopmani (Handley & Pine, 1992) は,既知の種の異名であったあったとする研究者がいる( Voss & Angermann , 1997)ので,この2種は含めない。ロスチャイルドヤマアラシ Rothschild's Porcupine, Coendou rothschildi (Thomas, 1902) が,「資料室」のハリハリ・インデックスに出ていない理由は不明。これは体重が1kg にも満たない,最小のキノボリヤマアラシであるという。ちなみに,Coendou rothschildi を載せている日本語ウェブページは,2004年5月現在,当ページしかないようだ。
アメリカトゲネズミ科・ホソオヤマアラシ属のホソオヤマアラシは,キノボリヤマアラシ科に含める研究者もおり,また,キノボリヤマアラシ属のヤマアラシたちをオマキヤマアラシ属と考える人もいて,意見の一致を見ていないのが実情のようである。
基本的に樹上性で,旧世界ヤマアラシよりも体重が軽い(ただし,カナダヤマアラシは例外で,体長85cm,体重18kg に達する)。オマキヤマアラシ属の2種とキノボリヤマアラシ属のキノボリヤマアラシは,トゲの生えていない長い尾をもち,これを樹の枝に巻きつけることができる。
キノボリヤマアラシ類は,旧大陸のヤマアラシと同じく,敵に背を向けて攻撃態勢をとる。キノボリヤマアラシ類の中では地上での生活時間が比較的長いカナダヤマアラシは,長い尾にまでトゲを有する分,凶悪だ。彼らは,敵が近づくと,尾を横に振って,近づく敵の顔や前肢にトゲを突き刺す。トゲの先端近くには釣り針のような“返し”がたくさんあり,突き刺さると容易には抜けない。『アニマル・ウォッチング』によれば,痛みのため筋肉が収縮する結果,トゲは深部へと押し込まれてゆき,約4センチのトゲが1日に約2.5センチの割合で組織を貫通していく。重要な臓器を傷つけたり,前足の裏に刺さって歩けなくさせ,その動物を死に至らしめることもあるという。
シートンの『動物誌』は,物語風に再構成された有名な『動物記』とは一線を画した硬派な動物エッセイだが,その中で,この意外にとぼけた動物の生態を,シートンはユーモラスに活写している。
こちらのカウボーイ・サイトによれば,捕食者ばかりではなく,牧場の牛もヤマアラシにちょっかいを出して鼻先にハリが刺さることがあり,抜くのにはペンチを要する(!)ことさえあるという。柔らかい鼻に刺さった逆トゲつきのハリを抜かれるのは,牛にとっても相当キツい体験だろう。
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カナダヤマアラシ
North American Porcupine or
Canadian Porcupine
(Erethizon dorsatum ) |
カナダヤマアラシ属のカナダヤマアラシによる樹皮の食害は,以前から問題となっている。
そもそもヤマアラシ類やキノボリヤマアラシ類が属する齧歯目(ネズミやリスの仲間)の動物は,「齧る歯」というその名のとおり、種実など硬いものをかじり続けることが生活パターンに組み込まれており、何かをかじって門歯をすり減らし続けなければ,生涯絶え間なく伸び続ける門歯が下顎につっかえてしまう。ビーバーは水辺の暮らしに特化した齧歯類で,その鋭い前歯と皮膚の露出した尾を除けば,カワウソやラッコのようなイタチ類の仲間のようにも見えないことはないが,水族館で飼育されている個体などをよく見ていると,ネコの爪研ぎのように,お気に入りの鉄扉でガリガリ前歯を研いでおり,そこだけ扉の塗装がはげていたりする。
カナダヤマアラシは年間を通して樹皮をかじるが,これは歯を摩滅させるためばかりではない。特に食物の乏しい冬の間は,針葉樹の葉やさまざまな樹皮が,彼らの貴重な栄養源なのだ。彼らの腸は,セルロースを効率よく消化することができる。
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カナダヤマアラシに
樹皮を食害された木
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フィッシャー(ウオクイテン)がこの動物の天敵で,まわりをぐるぐる回って頭を一撃する攻撃を繰り返し,倒れたキノボリヤマアラシをひっくり返す。アルマジロやハリネズミ,ハリモグラのように体を丸めることのできないキノボリヤマアラシは,こうなるとまったく無防備だ。柔らかい下腹部から食いついたフィッシャーは,やがてトゲのコートだけを残してこの獲物を平らげてしまうという。
カナダヤマアラシの数を減らすため,北米ではしばしばテンが放される。ある地域では,テンを放したことにより,ヤマアラシの個体数が4分の1に減ったとの報告もあるという。
キノボリヤマアラシ科のうちの最大グループは,6種を擁するキノボリヤマアラシ属だが,このうちニシインドキノボリヤマアラシは,19世紀半ばに西インド諸島で棲息が確認されたのを最後に姿を消し,すでに絶滅しているものと見られる。
同じグループのコロンビアキノボリヤマアラシも,「レッド・リスト」のVU(危急種)に名を連ねている。コロンビア,ベネズエラ西部(マラカイガ湖以南)に分布するコロンビアキノボリヤマアラシはきわめて稀少で,個体数は1万以下と見られる。標本も数個体しかなく,その捕獲地点であった森林も,ほとんど伐採されてなくなってしまっているという。
また,「レッド・リスト」からは洩れているミナミキノボリヤマアラシも,ブラジル科学アカデミーによる絶滅危惧動物のリストに記載されているという。
このほか,1属1種のホソオヤマアラシが「レッド・リスト」にVUとして記載されており,オマキヤマアラシ属も,ブラジルの海岸森林消失によって大きな影響を受けているといわれる。
なお,ホソオヤマアラシについては,最近,キノボリヤマアラシ科から,同じヤマアラシ亜目のアメリカトゲネズミ科に移す考え方がある。
(2001.09.15. 最終推敲:2004.05.10.)
◆ ジムヌラ類 ◆
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ジムヌラ
Moonrat(Moon Rat) or Malayan Gymnure or Raffle's Gymnure
(Echinosorex gymnurus ) |
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齧歯目ハリネズミ科は,ハリネズミ亜科(14種を含む)とジムヌラ亜科(6種を含む)とに分かれる。
広い意味ではジムヌラ類もハリネズミということになるが,体型が細長く,ハリも持たないため,あまりハリネズミらしくない−−つまり,本来なら本項で紹介される資格をもたない動物である。「ハリネズミ」というときは,ふつうジムヌラの仲間は含まれない。
ジムヌラは,人に好かれるような動物ではない。上のイラストに,掲載元のページでつけられていた台詞も,いかにも嫌われ者のそれである。BBC のD.アテンボローは,『地球の生きものたち』の中で,「腐ったニンニクのような」体臭を発するこの不機嫌そうな動物につけられた“moon rat”というロマンティックな名前に対する不満を表明している。しかし,そういうことならば,もう一つの「ジムヌラ」という名前の方は,なかなか感じが出ているのではないだろうか。
6種のうち,属名を "Echinosorex" というジムヌラ Echinosorex gymnurus(上の写真),英語名を shrew-hedgehog(トガリネズミ−ハリネズミ)ともいうというシナジムヌラ Neotetracus sinensis (下の写真),さらに,和名を「トゲジムヌラ」という Podogymnura aureospinula などは,トゲトゲ動物事典の編纂者としては気になる存在だが,いずれも詳細は未確認。
中国の海南島に棲息するハイナンジムヌラ( Hylomys hainanensis (Neohybomys hainanensis) )は,伐採や農地拡大により棲息地の常緑樹林が縮小しており,「レッド・リスト」ではEN(Endangered:絶滅危惧種)となっている。トゲジムヌラやミンダナオジムヌラも同様だが,Hylomys parvus(標準和名なし)は,最も重いCR(Critically Endangered:絶滅臨界種)となっている。
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ミンダナオジムヌラ 〔EN(絶滅危惧種)〕
Mindanao Gymnure
(Podogymnura truei ) |
チビオジムヌラ
Lesser Gymnure
(Hylomys suillus ) |
シナジムヌラ 〔LRn(稀少種)〕
Chinese Gymnure
(Neotetracus sinensis ) |
(2001.11.18. 最終推敲:2004.05.08.)
◆ テンレック類 ◆
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テンレック
Tailless(or Tail-less) Tenrec
or Common Tenrec
(Tenrec ecaudatus )
いかにも小型哺乳類っぽい
体形にだまされてはならな
い。
トガリネズミ類−−現存す
る最小の哺乳動物を含む
−−やソレノドン類と似た
ような外見でありながら,
テンレックは世界最大の
食虫類の一つである。
ブリーダー・サイトの写真
で,引き綱つきで戸外を散
歩する姿を見れば一目瞭然
だが,成体で体長 26.5〜
39cm と,意外に大きいの
だ。
テンレックの子だくさん
ぶりについては,本文参照。 |
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サンフランシスコに
本拠地を置く
ネットサービス・
ソフトメーカー,
テンレック社の
ロゴと広告バナー。
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tenrec とは,ten.rec. すなわちテノール・リコーダー tenor recorder のこと,ではない。当たり前だが。
テンレック類とは,テンレック亜科に属する動物たちのことだが,彼らはマダガスカル島のほかには,世界中のどこにも棲息しない。テンレック亜科は4属23種からなり,テンレック科を構成する3つの亜科の一つである。ほかの2つは,同じくマダガスカル島に分布するコメテンレック亜科(モグラに似る)と,西アフリカ・中央アフリカに分布するポタモガーレ亜科(カワウソに似る)である。
テンレック類の中で最も大きい commmon tenrec の写真を上に示したが,これは和名をテンレックという。つまり,単に「テンレック」と言った場合は,この common tenrec という単一の種を指すのか,テンレック類(テンレック亜科)全般についての話なのか,あるいはコメテンレック類・ポタモガーレ類を含めたテンレック科全体を指すのか,判断しづらい場合があり,たいへんややこしい。
★ Too Trivial! ★
ここでは便宜上, common tenrec をナミテンレックと呼ぶことにしたいが,上の写真右上,あくびをするナミテンレックの,大きな口に注目していただきたい。
はじめにこの画像を何気なく見たとき,まさかこんなに大きく口が開かれるとは思われず,下あごを前肢と取り違えて見過ごした人もいるのではないだろうか(だが,前足はちゃんと両方とも見えているのである!)。
いわゆる「都市伝説 urban legend 」の,とりわけアメリカで広く流布している話形の一つに,“メキシコから来たペット the mexican pet”というものがある。
あるアメリカ人女性が,メキシコ旅行中,たまたま餌を与えたことがきっかけで自分についてくるようになった野良犬に情が移ってしまい,荷物の中に隠してこっそり連れ帰る。しかし,間もなく「犬」の様子がおかしいことに気づき,獣医に預けることにする。獣医からはすぐに連絡があり,第一に,彼女が外国で法を犯して拾ってきた動物は犬ではなく,巨大なドブネズミであり,第二に,そのドブネズミは今や死にかけているということが伝えられる(それが暗示するのは,その動物とごく身近に過ごしていた“飼い主”も,すでに死病に感染している可能性があるということである)。
数多くある類話(女性がその「動物」を拾う経緯や,動物の異常に気づくきっかけ,動物の出身国などがいろいろに変わる)のいくつかでは,その動物は家人の留守中に,その家で以前から飼われていた先住のペットを,ずたずたに噛み殺してしまう。
確かに,熱帯地方や,先進国よりずっと衛生管理の徹底していない異邦の都市で目撃される現実の巨大なネズミが,それをはじめて目の当たりにした人に与える戦慄は,このような「伝説」が生み出されるきっかけとしてふさわしいものかもしれない (かく言う私も,実際にはメキシコの無毛犬と間違えられるような巨大ネズミの存在は知らないが)。
だが,ナミテンレックのような,外見上はネズミの仲間のようなのに(実際には齧歯類ではなく食虫類だが)小型愛玩犬ほどもの大きさのある「エキゾチック・ペット」たちが,最も多数派の一般人,すなわち,動物の生態についてはかなり不案内であり,「ペット」に関してはありがちな保守的見解にとらわれているような人たちに目撃されたときに,彼らに与えるに違いない,同じくらい大きなショックのことを考えると,このような話の隠れた生みの親は,むしろ彼らのような,新種のコンパニオン・アニマルたちだったのではないかという気もしてくる。
実際,このタイプの都市伝説で,巨大ネズミの出身国とされるのは,メキシコのほか,香港や韓国,オーストラリア,パキスタン,グァテマラなどだが,「野良犬」が“アフリカ旅行中に”拾われたとしている例もある。
もっとも,このような陳腐で退屈な教訓でオチがつく都市伝説の語り手たちは,どのみち“本当の”動物の伝播ルートなどについては無頓着でもあり,要は“いかにもそれっぽい”と思われる国や地域であれば,どこであってもかまわないのだろう。
この話形が,他の多くの都市伝説と同様,異国の土地や文化,外国人などに対する漠然とした警戒心と敵意 (ふだんは抑圧されている) が投影されたものであることは,明らかである。
テンレック科はハリネズミと同じ食虫類に属するが,頭骨の形状などから,ハリネズミよりも原始的なグループとされている。早い時期にアフリカ大陸から切り離されたマダガスカル島では,他の地域ではハリネズミやトガリネズミの仲間が占めるニッチを,テンレック類が代わりに占めている。
その“原始性”の端的な例と考えることができそうだが,テンレック科の動物の恒温性は不完全であり,その体温は気温に大きく左右される。ハリネズミと同様,棲息地域によって冬眠または夏眠をする。テンレックは1年に少なくとも6か月以上も,土で栓をした巣穴の中で眠っているという。
また,テンレックは一時に平均15頭の子を産むが,これは哺乳類の産児数としては最高記録である。乳房は通常12個だが,最高記録は29個であるという。
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シマテンレック
(Lowland) Streaked Tenrec
(Hemicentetes semispinosus )
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マダガスカル島のテンレック類は,別の地域では他の食虫類(モグラ,トガリネズミ,ハリネズミ)によって占められているいろいろな生態的地位を一手に引き受けるようにして,多様な進化を遂げたため,姿も体の大きさも,さまざまに分化している。
ハリテンレック(右写真)やヒメハリテンレック(後出)は,ハリネズミと同様のトゲトゲした体毛をもち,外見もよく似ている。一方,シマテンレック(上写真)なども,一応まばらで抜けやすいハリをもつが,外見的にもあまりハリネズミには似ておらず,どちらかというと,前項で紹介したジムヌラ(ムーンラット)を思わせる。このシマテンレックの独特の習性として,腰のあたりのハリをこすり合わせて音を出し,仲間に異状を知らせたりするという。
(西側先進国でまことしやかに流布される恣意的な「伝説」の示唆するところとはたまたま正反対の現象だが,)ヨーロッパ人がマダガスカル島に連れ込んだ犬による殺戮は,テンレック科の動物たちの生存にとって,今でも大きな脅威であるという。「レッド・リスト」では,テンレック科のうち,マダガスカルに分布するコメテンレック亜科の3種がVU(危急種),3種がEN(絶滅危惧種),1種がCR(絶滅寸前種)に,また,アフリカ本土に分布するポタモガーレ亜科でも,3種がEN(絶滅危惧種)となっている。もっとも,これら2亜科とは異なり,テンレック亜科の動物は,「レッド・リスト」には1種も記載されていない。
『ハリネズミクラブ』でもテンレックの紹介に1ページを割いているが,その生態は『マダガスカルの動物』(山岸 哲 編,裳華房,1999.06.)に詳しい。また,nothing さんの “SMALL CREATURES” では,シマテンレックのサンディーさん,ズグロテンレックのマンディーさんの愛らしい写真と,nothing さんの手になるこの不思議な生き物たちについての興味深い紹介文を見ることができる。さらに,R2_D2さんの “HEDGEHOG” では,テンレック類の1種を模したものらしい,珍しい壺の絵を見ることができる。
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ヒメハリテンレック
Lesser Hedgehog Tenrec
(Echinops talfairi )
ハリテンレック(あまり見かけない)と並んで,
ハリネズミに非常によく似た,半樹上性のテンレック。
ただしサイズはヨツユビハリネズミよりさらに小型。
外見上,ハリネズミと最も違うのは,ハリネズミ以外の
食虫類に共通のポチ目だろうか。
ハリネズミのように丸くなるばかりでなく,ヤマアラシの
ように後ろ向きに敵に突進することもある。
謎の組織 tenrec.com に,写真のギャラリーや
資料リンク集がある。
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おそらくは100パーセント現地のスタッフの手で作られている,フィリピン発の不思議な“日本アニメ風”作品「ゴキ友 Gokitomo」(原作 Igor Cabbab)は,ゴキブリとゴキブリ愛好家たちを主人公とするコミック作品である(掲載誌:QUESTOR Magazine)。ゴキブリ1匹の出現が,(ちょうど欧米のハツカネズミのように)特に若い女性たちを大パニックに突き落とす,我々日本人にとってはあまりにもお約束どおりの光景は,海外の ANIME ファンにも強い印象を与えるに違いなく,そこを逆手にとった“日本風”アニメなのだろう。
第11話 (QUESTOR Magazine Vol. 3 No. 6) では,「ゴキブリ食いハリネズミ」であるところの邪悪な「テンレック」が登場し,主人公の女子高生ツカガワアキコ Akiko Tsukagawa (当然ゴキブリ愛好家) に取り憑いてしまう。凶暴化したアキコはゴキブリたちに襲いかかり,ついには弓道をたしなむ親友 ツルクウカ Kuka Tsuru の弓を取ってゴキブリを狙い撃つ暴挙に出るのだが……
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マダガスカルの,7cm余りの巨大ゴキブリ。
( cockroach-lover 以外の皆様,ごめんなさい…)
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この妖怪じみた生き物は,もちろん半ば以上は作者である Igor さんの創作であって,実際のテンレックとはあまり関係がない。とはいえ,zoo to you によれば,少なくともヒメハリテンレックは−−彼らがハリネズミと同じ「食虫類」であることを,ここで思い出していただきたい−−実際に現地の巨大なゴキブリを好物としているようだ (うーん……)。
不明と言えば,海外のアニオタフォーラム deviantart.com にかなり頻繁に登場している,某青い音速ハリネズミの向こうを張ったような Havoc-The-Tenrec の存在も,謎と言うほかはない。
さらに,いくら何でもこれはハリネズミだろう,という画像がいくつか混ざっているこちらのウェブページも,実に謎である。
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テンレック類とハリネズミ類を描いた,ゴールドスミス『動物誌』の図譜
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(2001.09.15. 最終推敲:2004.09.28.)
◆ ハリモグラ類 ◆
ハリモグラ
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ハリモグラ類 shnort-nosed echidnas, spiny anteaters は,モグラの仲間ではない。体はトゲに覆われてはいるが,ハリネズミの仲間でもない。モグラは食虫目モグラ科,ハリネズミは食虫目ハリモグラ科だから,モグラとハリネズミは,実は近縁同士だ。しかし,ハリモグラは単孔目ハリモグラ科で,系統的にはこの両者との間に何の類縁関係もないのである。
現生のハリモグラ類は,3種が知られている。系統的にハリモグラに近い動物といえば,同じ単孔目に属するものということになるが,現生ではカモノハシ Ornithorhynchus anatinus, duck-billed platypus とミユビハリモグラ(後述)の2種しかない。つまり,現生の単孔類はカモノハシ科とハリモグラ科しかなく,カモノハシ科は1科1属1種のカモノハシのみであり,ハリモグラ科はハリモグラ属の3種のハリモグラと,1属1種のミユビハリモグラ属ミユビハリモグラとで構成されている。いずれも珍獣事典の常連である。現生のハリモグラは,長らく1種とされていたが,最近になって3種に分けられた。
単孔目は,現存する最も原始的な哺乳類のグループである。卵を産むことで知られているが,そのほかにもいくつかの原始的な特徴をもつ。単孔目という名前は,爬虫類や鳥類と同様に,排泄器官と生殖器官が分化しないで1つにまとまった「総排泄孔」をメスがもつことに由来する。とはいえ,卵から孵った子どもは,母親によって乳を与えられて育つし,恒温性(不完全ではあるが)や体毛といった哺乳類の基本的な特徴はしっかり備えている。タスマニア島を含むオーストラリアとニュージーランドにのみ分布し,天敵がいないことでたまたま生き延びることができた古い変わり種と考えられる。
ハリモグラは,体長30〜45センチほどである。単独で生活し,かつては夜行性とされていたが,昼夜を通して活動的なようだ。ただし,非常に暑いときや寒いときは不活発になる。アリ食い動物であるハリモグラには,歯がない。長く突き出た口吻をもち,15センチから17センチほどまで伸びるミミズ状の舌で,アリ,シロアリ,ミミズなどを食べる。
分布域のかなり狭いカモノハシやミユビハリモグラと違い,オーストラリア,タスマニアおよびニューギニアの,広い範囲に分布している。オーストラリアで最も広い分布域を誇る哺乳類であり,熱帯と低山帯の多雨林を除くすべての環境に棲息するという。それでも,準絶滅危惧に指定されている。
総排泄孔から,ウズラの卵くらいの大きさの卵を一度に1つだけ産む。妊娠期間は23日。孵化した仔は母親の乳に取りつくが,乳房はなく,汗腺のようなものからにじみ出てくる液体をなめるという。
モグラの仲間ではないとしても,この名で呼ばれるからには穴を掘って地下で暮らしているのだろうと思われるかもしれないが,そんなことはない。確かに穴を掘るのは得意だが,生活圏はあくまで地上なのだ。
デズモンド・モリスによれば,ハリモグラは,「脅かされると、岩の割れ目や穴に逃げ込んで、強力な爪を使って体をがっちり固定するので、動かすことはほとんどできなくなる。襲いかかろうとする敵はみな、捕らえる手がかりのない針の山をつきつけられる。開けた場所で捕らえられると、ハリモグラはとにかくがむしゃらに土を掘り下げて、棘だらけの背中以外には何もみえなくしてしまう」という(『アニマル・ウォッチング』)。
この,水中に沈んでゆく船のように,瞬く間に地面に沈み込んでいくハリモグラの神業は,珍獣好きにはよく知られている。同書では,穴に沈み込んでトゲトゲの背中だけを見せるハリモグラの写真も見ることができる。地面に体を固定するのに使われるのが,約4センチほどある後ろ脚のケヅメで,これをハーケンのように地中に打ち込むと,ハリモグラの体はビクともしなくなる。後ろ脚の爪には毒があるともいうが,哺乳類で毒をもつものは非常に珍しい。
しかし実をいえば,モリスの記述は片手落ちである。地面が硬い場所で敵に襲われた場合,ハリモグラはハリネズミとまったく同じように体を丸めることもできるのだ。今泉忠明『世界珍獣図鑑』や川端裕人『へんてこな動物』で,その証拠写真を見ることができる。
ハリネズミのトゲは,ハリネズミの針などと比べると,ずっと長くて太い。トゲの間には,短い毛が生えている。
これだけの防御策を備えているからには,さぞかし強力な天敵の脅威にさらされているに違いない,と思いきや,ハリモグラにはほとんど天敵がいない。唯一警戒すべき相手といえば,ハリモグラをとらえて食べる原住民たちだが(ハリモグラの肉は,アリをつぶしたようなにおいがあるが,たいへん美味であるという),地面にしがみついたり丸くなったりといった防御策は,肝腎の人間相手には,大して役に立たないはずである(吉行淳之介『珍獣戯話』毎日新聞社,1982.11.による)。
F.クリックは,若くしてDNAの二重螺旋モデルを提唱,この功績によりノーベル賞を受賞したが,後に脳の研究者に転じた,天才肌で変わり者の生物学者である。前出『へんてこな動物』の川端裕人によれば,クリックらは,「脳は忘れるために(記憶を整理するために)夢をみる」との説を立てているという。クリックらによれば,ほとんどの哺乳動物は睡眠中にREM睡眠を体験する(つまり,夢をみる)が,ハリモグラにはREM睡眠が観測されない。記憶が整理されないということは,ムダに大きな記憶容量を必要とすることになるが,実際,ハリモグラの大脳皮質はよく発達しているという。
2000年のシドニー・オリンピックでは,「ミリー Millie」と呼ばれるハリモグラの女の子が,マスコット・キャラクターとなっていた。カモノハシのシド Syd ,ワライカワセミのオリー Olly とトリオを組んだ中の紅一点である−−色からすれば,“黄”一点なのだが。何にせよ,このキャラクターたちが,モデルの動物たちの人気を少しでも高めたとは,どうしても思えない。どんなに語彙の貧困なギャルでも,彼らをから受けた印象を表現するのに「カワイイ」という言葉を敢えて用いるのは,さすがにためらうだろう。ミリーの名は千年紀にちなんだものであろう。他のマスコットの名前も,由来は実に明快だ。あえて有袋類をはずした気概は買うが,キャラクター・デザインにはもう少しこだわった方がよかったのではないか。
かつてNHK教育で放映されていた「はりもぐハーリー」というアニメーションの主人公も,ハリモグラだったらしいが,このアニメ,あまり人気はなかったらしく,ウェブでも関連情報はほとんど見あたらない。
(2001.09.15. 最終推敲:2005.03.05.)
◆ ミユビハリモグラ ◆
ハリモグラ科のもう一方の構成員であるミユビハリモグラ Zaglossus bartoni, long-nosed echidnas は,ニューギニアに棲息する。低山帯の林と高山帯の草原が,彼らの生活域だ。レッド・リストでは,絶滅危惧IB類となっている。
体長60〜100センチと,ハリモグラよりかなり大柄で,現生の卵生哺乳類中で最大である。外見上も,ハリモグラと似ていることは似ているが,明らかに別種の動物である。脚がハリモグラよりも長く,頭部が地面から離れている分,口吻も長く,ときに20センチを超える。
主にシロアリとアリを食べるハリモグラに対して,ミユビハリモグラは,ミミズや非社会性の昆虫を主な食料としている。少し曲がった長い口吻の先を地面に付けて,鼻で地中のミミズを探り,舌の先端にあるかぎ状になったトゲで獲物をひっかけ,飲み込む。
ハリモグラと異なり,針は短くまばらで,両体側を除いて体毛に隠されている。そのため,あまりトゲトゲしたイメージはない。他の単孔類と同じく耳介がなく,丸い頭に長い口吻を備えた外見は,4本脚のキーウィーといった恰好で,モグラの名にふさわしいのは,黒くなめらかな体毛くらいである。体側部では,トゲの白い先端が,毛の間からわずかに見えている。動きはゆったりとしている。
ミユビハリモグラ属の動物は,化石種では3種が知られている。このうちで最大のジャイアントミユビハリモグラは,更新世のオーストラリアに棲息し,全長約90センチと,現生のものの約2倍の体長があった。
(2001.09.15. 最終推敲:2005.03.05.)
◆ トゲバンディクート類 ◆
バンディクートは,有袋目バンディクート科の動物で,ネズミやトガリネズミによく似ているが,体の大きさで言えばウサギに近いものも多い。バンディクート科は8属からなり,オーストラリア,タスマニア,ニューギニアに分布する。
トゲバンディクート属 Echymipera は,ニューギニアに分布するバンディクート類のグループである。ニューギニアのバンディクートはオーストラリアのものより原始的(祖型からあまり変化していない)と考えられているが,トゲバンディクートには,口吻が長く伸びている・尾が短いといった特徴が見られる。山がちなニューギニアでは,高度によってさまざまな種のバンディクートが棲み分けているが,トゲバンディクートは標高0メートルから1600メートルまで分布する。
トゲバンディクート属の動物は,5種が知られている。レッド・リストには,DD(不確定種:分類する上でさらなるデータが必要な種)として,トゲバンディクート属の動物3種(クチジロトゲバンディクート E. clara など)を載せている。
トゲバンディクート属の1種,トゲバンディクート E.kalubu, New Guinean spiny bandicoot は,体長20〜50センチほどで,毛色や大きさには変異がある。ニューギニアの草原や森林に棲息し,準絶滅危惧に指定されている。トゲ状の固い毛と,5〜12.5センチの無毛の尾をもつ。夜行性で,ほぼ食中性だが,果実も食べる。
(2001.11.25. 最終推敲:2005.03.05.)
◆ トゲネズミ類 ◆
デズモンド・モリスは,『アニマル・ウォッチング』のなかで,1,729種の齧歯類(ネズミ目)のうち,鋭いトゲをそなえるものを101種として,アフリカトゲネズミ(18種),トゲポケットネズミ(22種),トゲネズミ(37種),ヤマアラシ(24種)を挙げている。
このうち,ヤマアラシを除く3グループは,いずれもネズミ科−ネズミ亜科に属するが,これらはヤマアラシやハリネズミのようにトゲで背面を完全武装しているわけではなく,本来の柔毛に交えて細くて鋭いトゲをまばらにもつに過ぎない。
ハリネズミという動物は,このような形態の動物がより特殊化することによって生まれたのかもしれない。
トゲネズミ属 Tokudaia は南西諸島の固有属である。同属の動物は海外には見られない。そればかりか,近縁の属さえアジア大陸内には見当たらず,探索の範囲をインドネシアのセレベス島やスマトラ島に広げてみてはじめて見出すことができる。英名 spiny rat は,属を異にする近縁のもの全てを含めた名前であり,厳密にいう場合は,Amami spinous country-rat, Okinawa spinous country-rat の名を使う(この属の齧歯類を特に ryukyu spiny rat とする資料もあるが,せめて okinawa としなければ,後述の学名の混乱に拍車をかけるだけだろう)。ネズミ亜科89属中の1つで,国内に棲息するものでは,ドブネズミやクマネズミが属するクマネズミ属 Rattus が比較的近いといえる。
現在知られているのは,奄美大島,徳之島のアマミトゲネズミ Tokudaia osimensis ;Abe, 1934 と沖縄本島北部のオキナワトゲネズミ Tokudaia muenninki ;Johnson, 1946 の2種。慣例的には両グループは亜種の扱いを受け,トゲネズミは T. osimensis 1種のみ(1属1種2亜種)とされているが,両者の染色体の構成は明確に異なることが知られており,さらに,実はアマミトゲネズミとして1くくりにされている奄美大島のものと徳之島のものの間にも違いがあることが判明しているので,結局,棲息する島ごとに独立の種ととらえる(1属3種)のが妥当では,との声もある。
生態には大きな違いは見られない。イタジイやカシなどの優勢な常緑照葉樹林の樹洞などに暮らし,夜行性。食性は雑食で,植物(シイ類の種子)や昆虫などを食べる。体毛には,名前の由来となった硬く扁平なトゲ状の剛毛が含まれる。オキナワトゲネズミは,アマミトゲネズミよりやや大きくなる。
トゲネズミは現在,上記3島にしか棲息しないが,化石は九州でも見つかっている。奄美諸島・沖縄諸島には,トゲネズミのほかにもアカハライモリやハブといった固有種が見られるが,これらの動物は,現在の日本列島の大部分がまだ大陸の一部で,大隅諸島,奄美諸島,沖縄諸島などが九州から南西へのびる地続きの半島であったころに,北からこの地域に入ってきたものと思われる。
トゲネズミは1972年に天然記念物に指定されている。
現在,特に奄美大島のトゲネズミは,森林開発による天然林の急激な減少やノラネコ・ノライヌの増加によって生存を脅かされており,帰化動物として問題になっているマングースによる捕食も無視できない。ハリネズミほど強力ではないトゲネズミのトゲは,ハブや猛禽類など在来種の天敵に対しては有効だが,新しい天敵たちに対しては,十分な防御とはならないらしい。徳之島や沖縄のトゲネズミも,同様に深刻な条件下に置かれている。
写真家の湊和雄氏によれば,沖縄の山原(やんばる)の森に棲息する,天然記念物の指定を受けた16種の動物のうち,最も目撃の難しいのがオキナワトゲネズミである。近年は目撃例がほとんど絶えており,湊氏も1992年に棲息地を探し当てて本格的な撮影に成功したものの,翌年には姿が見られなくなってしまったという(讀賣新聞夕刊,2001.08.)。
IUCN(国際自然保護連合)の「レッド・リスト」(1996) では,オキナワトゲネズミ,アマミトゲネズミとも,絶滅の危機に瀕している生物の3ランクのうち,2番目に重いEN(Endangered:絶滅危惧種)となっている。一方,環境庁の日本版「レッドデータブック」では,なぜかV(危急種)にとどめられている。
(讀賣紙の情報は「ゆ」氏の提供による。ありがとうございました)
(2001.09.15. 最終推敲:2003.12.28.)
◆ アフリカトゲネズミ類 ◆
不詳。
『アニマル・ウォッチング』に収録した写真に添えたコメントで,モリスは「ちょっと見ただけでは武装しているようすさえないが、いったん捕食者の口に入ると、尖った毛は激しい不快感を与え、しかも簡単に抜ける。」と解説する。
(2001.10.05. 最終推敲:2001.11.28.)
◆ スンダトゲネズミ類 ◆
齧歯目ネズミ亜目ネズミ科ネズミ亜科89属の内の1つ,スンダトゲネズミ属 Maxomys は17種から成り,東南アジアに分布する。
「レッド・リスト」には,ボルネオのヒメスンダトゲネズミ small spiny rat M. baeodon,ヤマスンダトゲネズミ mountain spiny rat M. alticola など,7種が記載されている。
(2001.11.25. 最終推敲:2001.11.29.)
◆ トゲマウス類 ◆
トゲマウス spiny mouse 類は,齧歯類ネズミ科ネズミ亜科89属の1つ,トゲマウス属 Acomys(8種)に分類される動物グループで,トゲネズミ spiny rat 類より2まわりほど小さい。背中の毛の一部が,短くて硬いトゲに変化している。アフリカからアラビア半島,小アジア地方にかけて棲息する。
8科のうち,カイロトゲマウス A. cahirinus などは人家にも入り込み,生態もよく知られているが,トルコトゲマウス A. cilicicus はトルコのアナトリア以外の地では分布の記録がなく,またクレタトゲマウス A. minous もギリシャのクレタ島にしか分布しないため,いずれも保護を要すると見られる。
「レッド・リスト」では,トルコトゲマウスはCR(絶滅寸前種),クレタトゲマウスは最も軽いVU(危急種)となっており,ほかに標準和名のない A. nesiotes が希少種として記載されている。
クレタトゲマウスは,講談社『レッド・データ・アニマルズ』で写真を見ることができる。
(2001.11.17. 最終推敲:2001.12.04.)
◆ トゲヤマネ類 ◆
齧歯目ネズミ亜目ネズミ科のトゲヤマネ亜科 oriental dormouse Platacanthomyinae(トゲヤマネ Platacantomys Lasyurus とホソオヤマネ Typhlomys cinereus の2属2種)は,最近までヤマネ科のヤマネ類に近い仲間と考えられてきたが,現在では広義のネズミ科に含めて考えられるようになっている。樹上生活者であることはわかっているが,その生活はほとんど研究されていない。トゲヤマネは主に種子食性で,インド南部の標高500〜1,000メートルの山地の森林に棲息し,胡椒栽培の害獣となっているらしい。
「レッド・リスト」にも亜科の名に対してCR(絶滅臨界種)と記されているが,なぜか属名・科名の記載はない。
(2001.11.25. 最終推敲:2001.11.28.)
◆ トゲコメネズミ類 ◆
齧歯目ネズミ亜目ネズミ科の15亜科中の1つ,アメリカネズミ亜科は,6群13族69属に分けられる。この6つのグループの1つに,パラモネズミ族とコメネズミ族から成るパラモネズミ-コメネズミ・グループがある。
コメネズミ族は,長い尾をもち樹上生活に適応したものと,湿地での半水中生活に適応したものから成る。これらのうちには,ブラジル南東部(エスピリト・サント州)に棲むブラジルトゲコメネズミ Brazilian spiny rat Abrawayaomys ruschii(1属1種),エクアドルのクロトゲコメネズミ Ecuadorean spiny rat Scolomys melanops と 同属の S. ucayalensi(1属2種),パナマからブラジル北部にかけて分布するトゲコメネズミ属 bristly mouse Neacomys(ギアナトゲコメネズミ N.guianae,キタトゲコメネズミ N.tenuipes,トゲコメネズミ N.spinosusの3種)が含まれる。トゲコメネズミ属の3種は,よく目立つトゲのある毛皮をもち,夜行性で種子食である。
クロトゲコメネズミ属の2種は,「レッド・リスト」ではEN(絶滅危惧種)となっている。
(2001.11.28. 最終推敲:2001.11.28.)
◆ トゲポケットマウス類 ◆
齧歯目リス亜目は7科65目から成るが,その内の1つ,ポケットマウス科の齧歯類は,北・中央アメリカから南米北部にかけて棲息する。5属60余種のうち,ほとんどは砂漠地帯での種子収集の生活に適応している。このグループの齧歯類は,大きな頬袋と鋭い嗅覚をもつ。
ポケットマウス科5属の内に,メキシコからパナマ中央部にかけて分布するトゲポケットマウス属 spiny pocket mouse Liomys(5種)が含まれる。乾燥地帯や半乾燥地帯に適応した他のポケットネズミ類に対して,モリポケットマウス属とトゲポケットマウス属は,熱帯の森林と草地に棲息する。トゲポケットマウスは,歩き回ってみつけた種子を頬袋に集め,貯蔵庫に蓄える。乾燥地に棲むポケットマウス類と同様,食料が貴重であることから,非社交的な生活を余儀なくされている。成長したポケットマウスは仲間と巣穴を共有することはせず,同じ種の2頭が巣穴から離れたところで出逢うと“ボクシング”を演じる。森林に棲むモリポケットマウスは,仲間に対してこれよりずっと寛容であるという。
(2001.11.28. 最終推敲:2001.11.28.)
◆ アメリカトゲネズミ類 ◆
かつての齧歯目ヤマアラシ亜目を構成した18科のうちの1つ,アメリカトゲネズミ科 spiny rat Echimyidae は,19属ほどから成り,ニカラグア南部からブラジル南部にかけて,南アメリカ北半分に広く分布する。現在は,ヤマアラシ顎亜目>テンジクネズミ型下目>デグー上科>アメリカトゲネズミ科に分類される。
アメリカトゲネズミ類は中型の草食性齧歯類で,多くはトゲか剛毛状の毛をもつが,柔らかい毛のものも何種か含まれている。サバンナで穴を掘って生活するもの,樹上生活に適応したもの,地上で暮らすものなどがある。尾が長いものも短いものもあるが,どちらも尾が切れてなくなってしまう傾向があるという。
「レッド・リスト」には,本科の動物が,実に12属25種も載っているが,そのうちBoromys, Brotomys, Heteropsomys, プエルトリコネズミ属 Puertoricomys の4属は,すでにEX(絶滅種)となっている。
研究者によってはキノボリヤマアラシ科に置くホソオヤマアラシ(英名 Thin-spined Porcupine, Bristle-spined Porcupine)は,頭胴長38〜45センチほどで,頭から肩にかけては長さ1.5センチ,肩から腰部までと尾は長さ5センチのトゲに覆われている。動きはゆっくりだが,ジャンプしたり,木に登ったりする。「レッド・リスト」ではVU(危急種)。同じくVUに指定されているギアナキノボリトゲネズミ(英名 White-faced Tree rat, White-crested Spiny Rat)は,頭胴長23.2〜30センチで,首から腰にかけて,幅の広いトゲが密に生えている。トーマストゲネズミ(英名 Giant Black-spined Tree rat)は頭胴長27〜28.7センチほどで,あまり目立たないトゲをもつ。ブラジル南東部サン・パウロ州のサン・セバスティアン島にしか棲息しないため,これもVUの指定を受けている。
(2001.11.25. 最終推敲:2003.12.28.)
◆ トゲホップマウス ◆
和名にトゲという言葉を含みながら,体にトゲをもたず,そればかりか,トゲをもつ種の近縁種ですらない齧歯類が1種ある。それが,ウサギのように跳ねるオーストラリアの砂漠ネズミ,トゲホップマウス Notomys alexis だ。
このネズミ, 英名を spinifex hopping mouse という。和名と英名を見比べれば,和名のホップが hopping、トゲが spinifex から取られた語であることは明らかだ。spiny と言えば「トゲトゲした」という意味だから,うっかりすると元の英名も,このネズミがトゲトゲネズミの一種であることを示しているかのように見える。
しかし実際は,spinifex とはこのトビネズミの形態的特徴を示す語ではなく,彼らが棲むオーストラリアの広大な砂漠地帯に生える,トゲだらけの藪草の呼称なのである。
この紛らわしさは,和名を決めた人が責めを負うべきことで,植物学の世界で spinifex が何と呼ばれているかは知らないが,せめてトゲクサホップマウスとでもするべきであったと思う。
トゲホップマウスはネズミ科の1種で,ジュリエット・クラットン=ブロックの『世界哺乳類図鑑』(新樹社,2005.02.)で写真と解説を見ることができる。ただし,この本には「すべてのトビネズミのなかでもっとも広く分布し、……」とあるが,日本語でトビネズミと言えば,通例,オーストラリアに棲むネズミ科の hopping mouse ではなく,アフリカに分布するトビネズミ科の jerboa たちを指すから(ホップマウスという半端な和名は,そもそもその点に配慮したもののはずである),この訳語は不適当だろう。
ついでに言えば,南西諸島に棲息するトゲネズミは,驚くべきジャンプ能力を備えているから,彼らになら,トゲトビネズミ,あるいはトゲホップラットの名前がふさわしいかもしれない。
(2005.02.21. 最終推敲:2005.02.21.)
◆ ハリセンボンその他 ◆
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ハリセンボンは,フグの一種。ハリフグ,スズメフグ,バラフグ,カゼフグなどの別名・地方名をもつ。膨れるとトゲトゲのついたボールのようになる。毒はなく,広辞苑は「美味。」と断言している。
ウソをついた報いにこの魚を呑まされそうになったら,「二枚舌が邪魔だから呑み込めない」と,キッパリ断ることをお勧めする。大型のマグロの胃内容物には,ハリセンボンがよく見つかるという。このトゲトゲ魚をどうやって飲み込むのかは判明していないが(D.モリス『アニマル・ウォッチング』),マグロたちが2枚以上の舌をもたないことは確かなようだ。生活上いろいろと不都合もあるだろうに。
ハリセンボンは世界中の暖海に分布する。アネット&テイラー『どうぶつ ビックリ くらしかた』(評論社,19699.05.)では,ハリセンボンとそっくりな魚が,なぜか「ネズミフグ」と紹介されている(って,どんなネズミだ? あ,ハリネズミか)。
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なお,山陰・北陸地方では,12月8日のことを「針千本」というらしい。この前後の海荒れの際,ハリセンボンが波で海浜に打ち上げられるためにこう呼ぶのだという。再び「広辞苑」によれば,これらの地方では,この日に針供養を行う。試みに広辞苑「針供養」の項に当たると,確かに2月8日と12月8日という日付が確かめられる。
UNI
*LO
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ちなみに,「トゲウオ」とは背びれ,腹びれ,しりびれに強いトゲのあるイトヨやトミヨの総称であり,ハリセンボンのことではない。
色の感じだけでいえば,ハリセンボンよりも,背びれに毒トゲをもつオコゼの方が,むしろハリネズミに似ている。なお,オコゼについて,広辞苑は「頗(すこぶ)る美味。」と断言している。
他項でふれたように、アリストテーレスの昔から現在に至るまで、ウニはヨーロッパの少なからぬ国において、その名をハリネズミと共有してきた。
ウニ類を含む無脊椎動物のグループを「棘皮動物門」というが,ウニ類のほかにウミユリ,ナマコ,ヒトデ,クモヒトデの仲間を含み,かなり不公平なネーミングとの印象を受ける。この名はもともとウニ類のためだけに用意されたものだったのに、だんだんと広げられて、今のように、トゲのトの字もない動物たちが、たくさん含まれるようになったということだ。
棘皮動物という名称は、echinoderm というギリシャ語由来のラテン語を直訳したものであるという。そして、Wikipedia の記事によれば、echinoderm とは、「 echinus(ハリネズミ)のような derma(皮)をもつもの」という意味にほかならない。
(2001.09.15. 最終推敲:2004.12.01.)
◆ 番外編:丸くなる動物たち ◆
上は,福音館書店「月刊 たくさんのふしぎ」誌1992年4月号(通巻85号,文・川道武男 絵・田中豊美)「似たもの動物園」からの写真 (ひろみさん,ありがとうございました)。アリクイが板金製の鎧を身にまとったかのような姿。「動物大百科」の記者はアーティチョーク(食用アザミ)に喩えるが,褐色の大きなウロコでできた鎧は,むしろ巨大な松かさを連想させる。この鱗は,ハリネズミやヤマアラシのトゲと同様,体毛が変化したものである。
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King of the Hill
ちなみに,右は Harmony Kingdom の Treasure Jest シリーズから,"King of the Hill" という作品。
穿山甲(山をうがつ甲羅)という漢名はいかめしいが,英名の pangolin はかわいらしい。ほかに「石鯉」などの別名もあるが,広辞苑が別名の一つとして「アリクイ」を挙げているのは混乱を招くので感心しない。
センザンコウ類は,有鱗目 Pholidota という1目を成しているが,これに属するのはセンザンコウ科 Manidae センザンコウ属の1科1属のみだ。この「有鱗目」という名前は,爬虫類のトカゲ類とヘビ類をまとめた「有鱗目 Squamata 」と紛らわしい。
センザンコウ属には,アフリカに棲息するものが4種,中国南部から南・東南アジアのものが3種ある。最も大きいのはアフリカのオオセンザンコウで,体長が75〜85センチ,体重が25〜33キロにもなる。アフリカのものもアジアのものも,乱獲により多かれ少なかれ絶滅の危険にさらされているが,アフリカのサバンナセンザンコウは,特に深刻な状況にある。アフリカでは肉が食用にされ,ウロコを魔除けとすることもある。中央アフリカのレレ族では,センザンコウは最も聖なる動物であり,村を支配する長老司祭たちに食べられることによって,神霊と人間とを結びつけると信じられている。一方,アジアで密猟の対象となるのは,薬種としてウロコが高く売れるためだ。ウロコはインドでも,リューマチに効くお守りとされるという。
センザンコウのウロコは,定期的に落ちては生え替わる。体をボール状に丸めると,並の動物は手が出せなくなるが,大型ネコ科動物やハイエナのような,骨をも噛み砕く顎をもった捕食者に対しては,これは必ずしも十分な防御ではない。
貧歯目のアリクイと同じく,センザンコウ類はアリ・シロアリ食いの生活に特化しており,アリ食い動物に共通の細長い舌と,歯のない細長い口,鋭い爪をもっている。もう一度 "King of the Hill" の勇姿を御覧いただきたい。この暴君が征服したとおぼしき「丘」は,アリ塚に違いない。センザンコウには樹上生のものと地上生のものがあるが,地上生のものは,爪を保護するために,前足の裏に爪を丸め込み,前足の外側を地面につけてゆっくりと歩く。
「さみしいトゲトゲ屋」の項で書いたように,無頼派作家の田中英光は,穿山甲と書いてはりねずみとルビをふるという不可解なことをしてる。
アルマジロについては,その姿を知らないという人はいないだろう。8属20種と,アルマジロ科は意外に大所帯だ。だが,球形になって身を守ることができるのは,実はそのうちのわずか2種に過ぎない。
センザンコウが旧世界のアジアやアフリカに産するのに対して,アルマジロは南米のほぼ全域からアメリカ合衆国東南部にかけて棲息する。アルマジロ類と共に貧歯目 Edentata を形成しているのは,アリクイ類とナマケモノ類だが,貧歯類の優雅な生活を,我々人間は,もう少し見習ってもよいのではないだろうか。
【関連項目】
・“針山状態”のイメージ
・アルマジロの作り方
(2001.12.27. 最終推敲:2004.06.03.)